本年は全国の51校より300作品が寄せられました。6月11日午後7時より写真評論家飯沢耕太郎氏、大阪中之島美術館館長菅谷富夫氏、写真家清水哲朗氏、各学校賞選考委員、大阪写真月間運営委員による厳正なる審査を行い各賞が決定しました。受賞者の皆様おめでとうございます。



※各写真には盗用防止のため、ランダムに透かしを入れております。ご了承ください。

グランプリ「光を探して」

広島県立海田高等学校 3年 大下 賢実さん

とても完成度の高い3点組。モノクロームの微妙な陰影を活かした画像処理が的確で、見る者をポエティックな世界に引き込んでいく力を備えている。シルエットになっている人物の扱い方もうまい。こういう作品は3〜4点の組写真ではもったいない気がする。もう少し数を増やして、よりスケールの大きな作品世界をつくりあげていってほしい。(飯沢)

グランプリのこの作品はまず全体を覆う黒の色調が特徴的です。モノクロ写真では光をコントロールするということは、同時に光の届かない黒の部分をコントロールすることでもあります。この作品はそれが秀でていると言えるでしょう。そのことによって少女の読書というモティーフの示す内容が想像豊かに見る人に訴えてきます。その本の内容は分かりませんが、少女の心の中が画面の大部分を占める黒によって伝わってくるように見えてきます。(菅谷)

仄暗い中での読書。手にしているのは人気作家の小説。その世界観を写真化したのか小道具として本を持たせたのかはわかりませんが、わずかな光を掬い取るように表現された独特の作風は趣があります。画面の大半にシャドーを取り入れることでタイトルイメージを際立たせたり、何もない空間で想像力を高めさせたり、主題の配置を大きく変えて視点誘導させるなど、画面構成もよく考えられています。アイデア、写真力、構成力が高評価につながりました。(清水)

モノトーンでまとめられ、光が印象的な静謐な世界。本・活字という今のZ世代の方には縁遠いように思うメディアが産み出す世界の広がりを感じました。タイトルにある「光」の使い方、画面のまとめ方、写真の組み方が大変上手です。(村中)


大阪府知事賞「colorful」

八代白百合学園高等学校 3年 橘 祈海さん

ポップな、弾むような色彩感覚が活かされた作品。アイディアをきちんと形にすることができているのがいい。広告写真の作例としても十分に評価できそうだ。これだけの画面構成力があれば、スナップ写真やポートレートでもいい作品ができそうだ。いろいろジャンルに挑戦するといいと思う。(飯沢)

色彩が白を背景に、潔いほど鮮やかに撮られています。背景の色をなくすことで、手の爪であったり、色鉛筆であったり、絵具やキャンデーを使って同じ色の質感の違いが際立ってみえます。組み写真という形式を有効に使っているともいえる作品と言えるでしょう。一枚ではこの作品のテーマは不鮮明になっていたと思われますが、3種類の形状や質感の異なる媒体で色彩というテーマを一貫させて表すことで、明確なメッセージを伝えることに成功しています。(菅谷)

シンプルイズベスト。「白バック(白背景)」で撮影することで狙いをわかりやすく伝えています。すべてが同じアプローチだとカタログになってしまいますが、4枚目のロリポップで変化をつけたのが功を奏しました。むしろこの1枚を輝かせるために他の3枚を付け足した、組写真を巧みに利用した表現とも言えます。3枚目まではラストショットにつなげる導入部やリズム形成であり、複雑な要素がないイメージを選んだのが腑に落ちます。(清水)

色彩を使った遊びが見ていて楽しい作品です。しかもおしゃれで、センスが良い。画面の構成力も優れている。2種類の画材、人の手と口の組み合わせも秀逸です。(村中)


大阪市長賞「静と動」

福井県立丹生高等学校 3年 齊藤 安漣さん

トータルな色彩のバランスが素晴らしい。青味のある被写体を中心に、赤や黄色もうまく配して、4枚の写真を巧みに組み合わせている。逆に、あまりにもまとまりすぎているところもないわけではないので、これからは、異質な要素をどんなふうに取り込んでいくかも考えていってほしい。(飯沢)

この作品のタイトルは「静と動」ですが、4点の組み写真はどれも雨の日の風景を捉えています。さらに言えば、雨の風景を取りながら光の動きを撮ったものとも言えるでしょう。雨の水滴を通して光は、ある時は車のテールランプの光の線になり、ある時は水滴のつくる波紋であり、何も干していない金属の洗濯挟みの輝きや窓に写る街の灯となって表されています。雨の日の光の様態を生き生きと撮った秀作と言えるでしょう。(菅谷)

様々な場面を見せることでイメージの厚みを出していく組写真表現らしいアプローチ。写っているものは日常目にするものばかりですが、作者には高い撮影技術や知識があるようで、各場面、的確にイメージをモノにしているところは職人さながらです。夜・雨・輝く被写体と写真映えするものに狙いを定めることで「魅せる写真」を意識していたのが窺えますが、まだまだバリエーションカットがありそうで他の展開もできそうな余裕が感じられました。(清水)

光と水の織りなす情景がセンチメンタルな印象を与えますが、そこに入ってくる金属製の洗濯ばさみが何か唐突で面白い。写真の組み合わせでイメージが広がる組写真の妙を感じます。(村中)


日本写真協会会長賞「憩い」

和歌山県立神島高等学校 3年 川﨑 廉斗さん

むずかしいテーマにチャレンジした力作。モノクロームで撮影したことで、生々しさはやや薄れたが、被写体に対するリスペクトが滲み出た、いいドキュメンタリーになった。このテーマは、もっと掘り下げることもできそうだが、写真家としての力を感じるので、いろいろなテーマに取り組んでみるのもいいかもしれない。(飯沢)

銭湯の雰囲気をよく感じさせる作品です。取り組みやすいと思われがちなモティーフですが、銭湯特有の湯煙の中の人物、人々の表情などが作り出す人々の活気や日常性を、猥雑にならずに切り取ることはなかなか難しいものです。この作品では人々の姿を多様な角度から撮影することで、生き生きとリズムをもって描き切っているといえます。銭湯での息遣いや響き渡る桶やお湯の流れる音が聞こえてくるようです。(菅谷)

これ以上ないほど臨場感にあふれた作品は「匂い・音・温度湿度」まで伝わってきそうでヒリヒリします。昭和のドキュメンタリーフォトのようなストレートで力強いアプローチは遠慮も迷いもなく被写体と対峙し「これで世の中を圧倒するんだ」と夢見る駆け出しの写真家のギラギラ感、覚悟を感じました。たとえ作者が将来壁にぶつかることがあってもこの作品を見れば力が湧く代表作になるかもしれません。今の勢いそのままに活動すれば凄い作品を残しそうです。(清水)

おじさん達の会話が聞こえてきそうな銭湯での憩いの一時をうまく捉えた組写真です。カラーだとリアルになりすぎるので、モノクロにしたのも正解だと思います。距離感とカメラアングルを変えた写真のセレクトも秀逸です。(村中)


大阪芸術大学賞「乙女に目覚め…?」

愛知県立小牧南高等学校 3年 伊藤 芽生さん

意外に日常生活は撮影が難しいテーマです。ちょっと自慢げで同時に恥ずかしさも見える表情の女性の顔が白いパックに包まれていて、生活の中にある、ふとした感情の揺れをうまく捕らえている素敵な作品です。(大阪芸術大学 吉川 直哉)


日本写真映像専門学校賞「よろしくね」

沖縄県立那覇工業高等学校 2年 糸数 月香さん

人が惹かれる作品です。言語を超えた関係性が写真に描写されています。背景の澄んだ光景も被写体をより引き立てています。私たちは無意識に望んでいる世界の形があると思います。写真は言語の壁を越え、人々を感動させる力があります。タイトルの「よろしくね」というのは少女の、馬の、作者の、または相互の気持ちなのでしょうか。種族や言語を超え、私たちが無意識に望む世界の形が立ち上がった秀作です。(日本写真映像専門学校 田中 一泉)


ビジュアルアーツ専門学校賞「落ち着く場所」

八代白百合学園高等学校 2年 金子 真奈実さん

楽しい写真です。
バスタブの中にお気に入りのものを配置して、真上から撮るというアイデアが面白いと思いました。
モデルは友達?それともセルフポートレート?
画像周辺を少しローキー気味な露出にし、中央部に視線が集まるように誘導される画面構成がよく考えておられるなと感心しました。
一枚の写真でも画面内をあちこち見られる情報量の多さも秀逸。
今回は単写真だけど、同じシチュエーションでご飯食べたり、テレビ観たり、などのシーンを撮って「落ち着く場所生活」みたいに組写真にしても面白いかもしれないですね。


飯沢耕太郎審査員特別賞「君をさがす。」

沖縄県立美来工科高等学校 1年 翁長 絵亜莉さん

ボケの効果が上手く活かされている。全体的にはノスタルジックな雰囲気だが、画面構成にはかなり大胆なところもある。縦位置の写真、3点でまとめたのもうまくいった。この作品も、もう少し数を増やして見せてほしい。さがしている「君」がどんな姿をしているのか、どんなふうに魅力的なのか、それがもう少し見えてきてもいいのではないかと思う。


清水哲朗審査員特別賞「もぐもぐタイム」

沖縄県立浦添工業高等学校 2年 幸喜 莉愛さん

家族アルバムにありそうな日常の何気ない瞬間を写した一枚。姿勢正しくカップ焼きそばを食べる子供たちの姿がかわいく目を細めてしまいます。よく見ると一人だけフォークだったり種類が違ったりしていますが、遊んだ後にみんなで食べるカップ焼きそばは美味しかったでしょうね。ネコや周辺風景の描写も味わいがあり、時間やその土地を感じさせてくれます。表現や記録性だけでなく、誰かの記憶に残る一枚っていいですね。